庭・街・風景に思う

照葉樹林の木々たち      平成24年12月19日

 ここは千葉県の南端付近、鴨川市大山不動尊の鎮守の森です。
 棚田の風景で有名な大山千枚田の最上部の丘に位置する不動尊の森には、スダジイの純林が見られます。
 今日は打ち合わせついでに、この森に足を踏み入れました。

 鬱蒼とした深い森の林冠を見上げると、まるでパズルのように空間を分け合うスダジイの枝葉が上空で競争し、光と空間を占有し合っている様子に、力強い生命力が伝わります。
 老木が枯死して空間ができればすぐに周囲の高木がそこに枝葉を伸ばして林冠を塞いでしまうのでしょう。

 

 スダジイの巨木。この地に根ざす本物の樹種。

 同じスダジイでも、根元の形状は様々です。この参道際のスダジイは、まるで浅根性の樹種のように板根が発達して、大木の幹を支えています。
 本来深根性のスダジイは、直根が発達するため、かなりの巨木になっても板根によって幹を支える必要はないのですが、何らかの理由でこの木は直根が伸ばせず、代わりに板根を発達させて巨体を支えて生き延びているようです。

 そしてこのスダジイは、樹幹が大きく空洞になってもなお、樹皮の下にバイパスを発達させて元気に命を繋いでいます。
 このたくましさ、しぶとさ、これがこの地で勝ち抜き、数百年数千年にも渡って上空を占有する木々の強さというものでしょう。

 森のボスとしてスダジイが高木層をほぼ占有するこの森ですが、巨木の大きな樹冠の合間から漏れてこぼれる日差しを拾い、その下層には様々な木々が立体的に空間を分け合い、豊かな森を構成しています。

林床のネズミモチ

ヒサカキ

ヤブニッケイに

イヌマキもこの林床に生育しています。

 参道沿いの切株からタブノキが萌芽しています。親木を探すと、、

 ありました。暖温帯気候域の照葉樹林の代表的な木、タブノキの大木です。
 どっしりと枝葉を広げて、スダジイの森の中にあって力強く、一歩も引かない貫禄で存在感を醸しています。

 そして林床にくまなく目を向けると、実生から芽吹いた見慣れない葉が点在しています。
これはバクチノキです。

 親木もありました。バクチノキの幹肌です。千葉の森では非常に珍しく、おそらく県内での自生はここ以外にはほとんどないかもしれません。

 葉や実の雰囲気から、南国の雰囲気をぷんぷん感じさせます。本来、もう少し南の方に生育するこの木が、千葉県最南部の鎮守の森に取り残されるように、しかしたくましく自生しているのです。

 大木となったバクチノキ。歴史の中で、温暖と寒冷の時期の繰り返しの中、ある時期に太平洋沿いを北上してきたバクチノキが、この地に取り残され、そしてその種は、大山不動尊の鎮守の森の生態系の中で、北限の生育地を守り抜いてきたのでしょう。
 気候は変動するもの、その中で樹種は森を伝ってその生育範囲を移動させていきます。一方で、都会の中の森のように孤立した森では、種の移動手段が限定されてしまうため、徐々に種が欠落していき、その生態系の多様性も健全性も先細ってしまいます。 北限あるいは南限の樹種が豊富に生き残る地は、生き物にとって本当の意味で豊かな地だと言えるのでしょう。

 

 これは、2週間ほど前に訪ねた熊本県の霧島神宮の宮域林。バクチノキです。南九州にはこの木が森の中に普通に点在して見られます。

この森が、霧島神宮 宮域林の林内です。同じ照葉樹林でありながら、常緑広葉樹の樹種の豊富さに驚きます。

 アカガシ。北から南まで、生育範囲は広いのですが、私の地元千葉にはほとんど見られません。

ホソバタブに

イチイガシ。

 シリブカガシ。

鹿児島の林床に多く見られるハクサンボクも、千葉には見られません。

 これは、霧島神宮の杉の木です。杉の木が大木となって森の最高木層を構成する地域は、多湿で生物的に豊かな土地の証と言えます。
 
 本来は、雨量も多く安定し、霧も発生しやすい沖積平野の豊かな土地であった東京神奈川千葉などは、豊富な樹種にあふれていたことでしょう。都会化した今は、杉の適する土地ではなくなってしまいました。
 それはそのまま、私たち人間の本来の生育基盤を貧困化させていることと同義でしょう。

 私たちの生育基盤、すべての命の生育基盤である森の多様性と健全性を繋ぐために、なるべく豊富な自然植生樹種を造園や緑化の中でも扱っていかなければ、そんな思いを新たにしたところです。

株式会社高田造園設計事務所様

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