越谷市の庭 緑の車道を作る 平成27年10月22日
先月末からかかり始めた埼玉県越谷市の庭の改修、環境改善工事、その一期工事がまもなく終了します。
芝生スペースは、これは車道として機能する、呼吸浸透するクッションのような緑の道です。車圧に耐えてなおかつ大地の通気浸透機能を失うことなく、健康に息づく土壌環境を維持するために、見えないところで様々な工夫を凝らしています。車道に単に芝を張っても、車圧を受けて土が締まって土中の水と空気の流れが滞ってしまえばよい状態を維持することはできません。
一方で、車圧に耐えて水と空気の流れを常に再生できるだけの土壌環境、路盤の構造を自然の理に基づいてきちんと構築しさえすれば、今や宅内敷地のかなりの面積を占める駐車場や車道も、大地が息づく緑の空間として保つことも可能なのだということを多くの人に知っていただきたい、そんな想いで、今回の工事手順をここで紹介したいと思います。
造園工事着手時の庭。砂利の道は、アスファルト道路を解体した下地の状態です。
家の目の前に、植栽による緩衝スペースもないままにアスファルト道路がありました。
住まいの微気候を改善し、夏は涼しく冬は暖かい、そんな住環境を作る上で最も重要なスペースを占めていたこの道路を解体し、移動することから工事は始まります。
この土地に今の家が建って40年、田んぼを埋めて造成された土地は常に水はけが悪く、土の表情や生えている苔や草の様子からも、表土が呼吸していないことが容易に読み取れます。
呼吸しない土壌環境では空気はよどみ、ひんやりした土の香りも感じられず、夏にはむっとした不快な空気感に包まれます。
大地の呼吸環境を健全な状態へと改善することなく、本当の意味で健康で心地よい庭などあり得ないのです。
もともとそこにあった木々を移動して、既存のアスファルト道路を解体撤去し、そして適切な位置に新たな車道を通していきます。
車道工事着手の際、大地の透水性を試験します。雨の前日、表層60センチ程度の深さで穴を掘り、そしてその水のひき具合を確認したところ、2日経っても水はひかず、雨の翌日はたまった水をくみ出してもまた、周囲から水が集まってきて溜まってしまうという、極度に水がはけにくい環境であることが分かります。
健康な住まいの自然環境をここに再生するためには、単に木々を配して景観ばかり整えればよいというものではなく、この、土壌の通気性、浸透性を改善することが必要不可欠になります。
水が浸透しない表土を掘り下げます。地下1m程度までは固く締まったやや粘土質の土層が続き、そこには樹木の根はほとんど入ることができません。
その下には、グライ土という、酸素欠乏状態の下で青くヘドロ化した土層がどこまでも続きます。このグライ土が空気と水を通さない土層となるため、水は地下の水脈に抜けてゆくことができずに土中で滞ってしまい、呼吸できず、植物の根もなかなか進入できない硬い土のままに改善されることのない、そんな状態が続きます。
敷地の地下を覆い尽くすグライ土。水と空気が動かない箇所では酸素が供給されず、土壌中の酸素が奪われて還元作用によって青く変色し、そしてそこには一部の嫌気性細菌とバクテリアしか生息することのできない、そんな汚い土が今、私たちの足元を覆い尽くしつつあるのです。
今年、東京や大阪などの都市部を中心に史上最悪の被害者を出した人食いバクテリアも、こうした土壌の悪化に象徴される生態系の劣化、単純化が招いた結果と言えるでしょう。
歯止めのかかる気配すら見えない生態系の劣化を食い止めることでしか、人類の健康な未来はありえないのです。
このグライ化土壌は、40年前の盛土の際に埋めたてられた、当時の表土だったのでしょう。それが、大地が呼吸できない状態の下で劣化し、かつての土壌はこの40年の間に完全に悪質で不健全な状態へと変わり果ててしまったのです。
こうしたことは何もここだけのことではなく、大地の通気性や浸透性を全く顧みることのない現代土木建築の手法が招いた結果であり、それが私たちの豊かな生存の基盤を広範囲に奪い去ってゆくのです。このことに社会が一日でも早く気づき、方向転換していかねばならないことを、造園工事の現場でいつも実感させられます。
そしてそのグライ層をさらに80センチほど掘り進むと、水が動く水脈に到達しました。縦穴をあけることによって土の側面から空気が抜けて、それに引っ張られるように土中のたまり水が集まり、そして流れていきます。
水が動く層は、ここでは地下1.8m。こうした縦穴を敷地内の要所に掘削していきます。
そして縦穴通しを繋ぐ横溝を掘削し、表土から水が浸みこみやすい状態を作っていきます。
グライ化した悪質な土壌を改善するためには、その土層に空気と水を通してゆくことが確実で即効性があり、そのためにはこうした横溝と縦穴の掘削が非常に効果があります。
自然環境を無視した道路建設や建造物、人はこれまで、点と線によって、広大な大地という面全体を劣化させてきました。
その逆に、広大な面全体を、呼吸する健全な大地へと改善するためには、縦穴と横溝、つまり点と線の作業によって健全化させるきっかけを作ることができるのです。
そして溝には、幹枝葉といった有機物を中心に絡み合わせて表層を安定させていきます。
新たにつくる車道の両脇に横溝と縦穴を掘削して有機物を埋め込み、そして竹筒で気抜きをしていきます。
路床(道路の下地)には、砕石とウッドチップ、木炭を混ぜてクッション性と通気浸透性を保つ状態を作っていきます
。
水はけの悪かったこの土地も、一連の工事の過程で飛躍的に改善されてきました。
石組みや植栽などの造園工事は、こうした土壌環境を改善してからようやくかかりはじめます。
そして、土留めの石組みの背面にも、剪定枝葉を挟み込んで、土と石との間に水と空気の抜ける層を作っていきます。
今ではよく石積みの背面の水を抜くために砂利を詰めますが、植物の根を早期に誘導するには砂利などの無機物だけでなく、植物枝葉などの有機物が効果的なのです。
江戸時代、城石積みの背面に大量の藁が詰められたことが文献資料によって明らかにされていますが、これこそが、石積みの強度を木々の樹木根によって補い、透水性と通気性に優れた状態を保つことで、豪雨でも洪水にも流亡しない強靭な城を築いてきたのです。
植物の力、特に目に見えにくい土中の根の働きを見直し、そしてかつての先人たちのようにそれを賢く活用してゆくことで、洪水にも津波にも耐える強靭な国土が再生できるのです。
大地の呼吸を止めてしまうコンクリート一辺倒の国土改悪の果てにあるものは、さらなる災害被害なのだということを社会はきちんと知る必要があります。
石組みの背面だけでなく、竹編み土留め柵の背面にも、剪定枝葉を挟み込んで土を埋め戻していきます。
これによって樹木の根はここに細根を張り巡らして、数年後に竹が腐って土に還っていった後にも決して流亡しない、健康な土手が完成するのです。
既存木の移植を終え、道路際の土留め柵を終え、いよいよこれから植栽にかかります。
植栽は常に、住まいの環境改善上最も重要な家際の高木から始めます。
家際に木々が植わると一気に家屋の表情は潤います。
木々越しの家屋の佇まい。
家屋側から見た庭の表情。家際の高木が土地の雰囲気を一変させます。
植栽が進んだところで、同時に車道の仕上げにかかります。
ウッドチップ砂利、木炭を混ぜながら重ね合わせていき、柔らかでかつ、車圧に耐える下地を作っていきます。
さらにその上に敷く下地材を配合しています。多孔質で水持ちの良い瓦粉砕チップにウッドチップ、土を混ぜて攪拌します。
これを車道に敷き重ねます。
その上に粉炭を撒き、
呼吸する車道の下地の完成です。
そしてその下地の上にうっすらと土を敷いていき、
そしてそこにノシバを張っていきます。
つまりここは、芝を中心とした野原の車道となるのです。
呼吸する緑の車道の完成です。
お施主のAさんは、「孫ができたらここでサッカーもできる」と喜んでくださいます。つまり、人と車、そして土中の生き物たちが共存する緑のスペースがここに実現しました。
宅内の車道や駐車場というものは、車の出入りは多くても一日に1~2回程度です。それだけの通行であれば、そこを緑に覆い尽くすことなど、本当は造作もないことなのです。
それをあたかも常に車が行き交う幹線道路のごとく、コンクリートやアスファルトで覆い尽くして土中の通気浸透性や健全な生き物環境を奪う意味など、本当は全くないのです。
車社会の今、敷地には必ず車道や駐車スペースが一定の面積を占めます。これを心地よく水と空気の通り抜ける環境として活かすか、あるいは従来のような無機的で呼吸しない不健全な環境としてしまうか、そんなことを今一度考えていただきたいと願っています。
こうした些細な改善が、安全で快適で持続的な生活環境の再生に確実につながるのですから。
庭を作る度、その土地の環境を健康なものへと再生してゆくこと、それこそがそこに住む人の安全と健康に繋がることを実感します。