庭造り

長崎の庭環境つくり 竣工     平成28年10月20日

 5年前から計画を進めてきた、長崎市のNさんの住まいと庭がようやく竣工しました。
 建築設計は安藤邦廣氏(筑波大名誉教授 茅葺き文化協会代表理事 里山建築研究所代表)、これに今回は照明デザイナーの福多佳子さんが屋内外の照明をデザインされています。
 日中の庭も良いのですが、巧みな照明のデザインによって夜もまた見ごたえ豊富な空間が現出されました。
 今回は夜の風景から簡単に紹介します。

 写真中央左側に玄関、右の小さな小屋は薪小屋です。
 玄関アプローチは叩き土間の駐車スペースを兼ねており、打ったばかりの土間が手前足元で温かみのある光沢を放っております。
 こうした,素材の質感が生きてくるのも、照明の効果なのでしょう。

 一階および2階正面の景を潤す南側デッキ際部分が、この住環境のメインの植栽と言えるかもしれません。
 家屋に寄り添う木立の姿、家と木々、その密接な在りようを巧みな照明が示してくれています。

 正面道路からの景。
 豊かな開口、外空間とのつながり、そして周辺環境、それこそが本来日本の心豊かな住環境なのでしょう。
 今回の庭環境つくりで、そんなことに改めて気づかされた想いです。

 土中環境改善作業中。降り注いだ雨がしっかりと土中に吸い込まれて浄化され、そして自然が作る水脈へと還してゆく、そのための土壌通気性、浸透性改善のための造作をはじめに行います。

 豊かな住環境つくりのために我々が常に最重視していることは、まずはその土地を健康な状態へと戻してゆき、自然界の根本たる呼吸環境を取り戻すことにあります。
 庭は竣工時が完成では決してありません。その後、木々や土中の生き物環境が健康に育ち、その土地の環境としてより豊かに育まれてこそ、人にとっての本当の快適さと心の原風景となる故郷の記憶が生まれるもの、そのためには、見た目の造作以上に、見えない部分である土中の環境改善に対して、幾倍もの労力と時間を徹底的に費やすのです。

 まずは敷地の低い位置、道路際に、この庭の表層水脈水を集めて、より深い水脈へと誘導する、敷地内最終の浸透孔の処理から始めます。

 土中の浸透ラインの水脈環境を恒久的なものとするためには、植物枝葉をよくすき込み、そしてその分解に伴って増殖する多様な微生物菌類の健全な力を借りるほかにないのです。
 現代の建築土木造作の中では顧みられない、かつては当たり前に行われていた造作の中に、人が自然界と敵対せずに快適に暮らしていける知恵が隠されているのです。

敷地の外周塀際など、土中の水が溜まって腐敗しがちな箇所に溝を掘り、枝葉は炭をすき込んみます。

 デッキの下は通常、コンクリートなどで固められてしまうことが多いのですが、実はそれはかえって床下の温度湿度変化を不自然で過剰なものへと増幅してしまい、木材寿命を損ないます。
 当然ここでは床下のコンクリート打設はせず、炭と土を交互に挟み込んで、安定した温度湿度環境を保つことで家にも人にも優しい環境つくりを心がけます。

土中環境改善作業の上で、いよいよ植栽です。植栽する地盤を掘って炭を攪拌した上、腐植の進んだ太い枝葉を井桁状に敷きます。
 この上に、掘り取った重たい根鉢を置くことで、下地土壌の圧密を防ぎ、根の呼吸できる環境を保つのです。

 また、どんなに固く、植栽に不向きな地盤であっても、我々はその土地の土を排除して入れ替える、ということはしません。
 その土地の土に炭、燻炭、樹皮たい肥、そして良質な腐植土を混ぜて埋め戻します。
 土は、育てるものだからです。
 根鉢の周りだけをどんなに良い土に入れ替えてても、その土中の通気浸透環境が悪いままであれば、せっかく入れ替えた良質な土もじきにバランスを失って腐り、硬化してきます。
 一方で、死んだ土、あるいは眠ってしまったような土であっても、土中環境さえ生き物が呼吸できる状態へと改善していけば、土壌は再びいのちを生み出し、恒久的に育み続ける豊かな環境へと短期間で変貌してゆくのです。

こうした環境改善作業の上で、やっと木々を植栽してゆくのです。
美しく快適な暮らしの空間つくりのために、まずは目に見えない部分の改善から始めるのです。

植栽が進むにつれて、美しい家屋はその土地になじんでいきます。

 家屋東西南北の植栽完了。
 それまで空間を感じさせてくれるものがなかった敷地に奥行きと潤いと落ち着きが同時に生じ、人も木々も心地よく生きていける心地よい環境が一気に誕生するのです。

 薪小屋に薪が搬入されると、暮らしの風景がますます整います。薪棚は植栽の合間で大切な風景要素になります。

 植栽の足元には、お施主のNさんと一緒に長崎県内の里山で採取した林床の腐植落ち葉を混ぜてマルチします。
 これが植栽したばかりの表土の改善にとても効果的な上、見た目にも潤いある庭の落ち着きが感じられます。

 ノシバ張芝後の主庭

 デザインと造形技術だけでは決して良い空間は生まれません。土地全体が呼吸している空気感こそ、これからの庭作りに求められることでしょう。
 そのためには、その土地の環境改善が決定的なカギとなるのです。仕上がってしまえば土中環境改善の苦労の跡は見えなくなります。しかしそこに、この土地に恒久の魂を宿す、とても大切なものがあるのです。

デッキ脇の植生を揺らして反射する木漏れ日

狭い主庭であっても、木々によって奥へと広がる空間の奥行きが見えてきます。

 長崎の港町に一つ、新たな住まいの命が宿りました。今後、この土地の暮らしを刻みながら風景の深みが日ごと増してゆくことでしょう。

 安藤邦廣先生および里山建築研究所の皆さま、大工の池上一則さんとスタッフの皆さま、照明デザイナーの福多佳子さま、造園施工に際し終始協力くださったグリーンライフコガの古閑社長、阿蘇ランドスケープ古閑舎、古閑英稔君とスタッフの皆さま、そしてお施主のNさまご家族の皆様他、現地で協力くださいましたすべての方に、この場をお借りして心よりお礼申しあげます。

株式会社高田造園設計事務所様

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