過去のブログ 『雑木の庭』

広島原爆の日に     平成23年8月6日

 66年前の今日、広島に原子爆弾が投下され、老若男女10万人以上もの命が苦しみの中に消え失せました。被害者方々に心からご冥福をお祈り申し上げますとともに、このような悲劇が2度と繰り返されることがないよう、どうしようもない怒りを伴う祈りが湧き上がります。
 
 数年前のことですが、横浜大空襲のさなかに親類友人知人の多くを失ったご年配のS氏と、戦争についてお話しする機会がありました。
 当時、30代だった私は、その立派な年配者に、恥ずかしげもなくこういったことを覚えています。

「もし、自分の愛する家族や子供たちに危害を加えようとする人間がいたら、勝敗も関係なく、理屈もなく戦います。自分が死のうが関係なく戦う。それが人間というものだと思います。戦争はいけないと分かっているけど、こうした無償の愛の延長に戦いがあると思うと、戦争というものが分からなくなります。」

S氏は、私に即座に言いました。

「それは違う。絶対に違う。どんなことがあっても戦争をしてはいけない。絶対にしてはいけない。」

S氏は、空襲で身内や親類、友人知人を亡くした後、「もし、戦争が終わってもなお、自分が生き残っていたとしたら、日本人が最も嫌う国の人たちとの友好のために命をささげよう。」と決意されたそうです。
 その後、66年が過ぎました。S氏は、戦後の生涯を、旧ソ連の国民との民間交流にその人生のすべてを捧げてきたのです。「敵とか味方とか、そんなものはない。分かりあえる人間同士、争う必要などない。殺しあう理由などどこにもない。」
 そんな、Sさんのことを思い出しました。

 なんで、日本はあの戦争をもっと早くに止められなかったのでしょうか。そんなこと考えても悲しみと怒りばかりが湧いてくる未熟な自分をどうすることもできません。
 Sさんの博愛心に、私など遠く及びません。
 私は一介の造園職人です。だからこそ、自由に発言できるし、正しいと思ったことを気兼ねなく言うことができます。そして同時に、自分の考えが間違っていたらいつでもその場で軌道修正できます。未熟な私は間違いだらけの人生です。だからこそ、それに気づかせてくれる人の存在は、後になって思えば、「あの人は自分にとっての仏だった」、と感じます。

 私の場合、たまたま小さな会社で温かな顧客とのお付き合いの中で活かして頂いてるので、精神的に自由でいられるのかもしれませんが、大きな組織の中で生きている人の中には、人間として生きる意味や仕事の本当の意味を見失ってしまうこともよくあるのかもしれません。
 社会や人の犠牲がどんどん大きくなろうとも、それよりも自分の所属する組織の体制を守ることを優先させてしまう、その過ちの積み重ねがあの戦争の悲劇を大きくしてしまったような気がします。

  ある友人が、先日私にこう言いました。
「サラリーマン人生の一定の成功とは、取締役になること。」
出世することという意味なのでしょう。彼はそんな社会が嫌で脱サラしたのですが。
 仕事の究極の目的は、本当はそれではいけないのではないかと思います。
「いかに出世したか」ではなくて、大切なことは「世のためにその人がどんな仕事をしたか。」なのではないでしょうか。

 仕事の本当の目的は、本当の意味での人の幸せであり、社会に対する良き貢献、そして、仕事に見合う正当な報酬を得て、自分や家族の人生を、心豊かにすること、そしてそれに感謝し社会に恩返しすること、世に役に立つことが仕事の喜びであるべきだと思うのです。
  会社の売り上げを上げることが目的ではなく、提供するものが世の役に立ち、喜ばれ、それがユーザーにとっての最大利益につながること、それが仕事の究極の目的であるべきではないでしょうか。
  私の仕事に関して言えば、私が庭をつくり、そしてその後長年にわたって庭を管理することが、そこに住む家族のためのかけがえのない豊かさにつながること、その高レベルの価値を一般ユーザーの手の届く価格で提供すること、ユーザー家族がその庭と共に、心豊かに幸せに暮らしていただくために全力を尽くすこと、そして、ユーザーに感謝されることで全ては報われます。
 その中で、自分や社員たちの家族が普通に生活できれば、他に何を求める必要があるというのでしょう。
 たまたま私は職人社会という、竹を割ったように単純で人として矛盾の少ない社会の中で生きているので、こうして勝手なことを言えるのかもしれません。
 こうした私の生き方を貫かせてくれるのもお客様方々、そして社会のおかげですので、ごく自然に、社会に対して恩返ししなければという思いになるし、自分の仕事を支えてくれる会社の若い衆には、彼らを何とか育て上げて、それぞれの夢を実現させてやりたいという気持ちになるのです。
 これがごく普通のことではないのでしょうか。

 自分が子供のころに遊んだ野山、美しい自然、温かな地域社会との繋がりの中の暮らしを、これからの時代を生きる子供たちにも伝えたい、そんな思いで私は仕事しています。

 子供たちのため、美しい地球のため、反省して軌道修正できる柔軟な社会、それは叶わぬ理想だとは、私は決して思いたくありません。

 s氏の生き方は、私に人間の仕事、仕事の意味というものを間違いなく教えてくれました。

S氏が代表を務める神奈川県日本ユーラシア協会機関紙のサイトは下記のアドレスです。
http://www.geocities.jp/eurask/news/1104.html

株式会社高田造園設計事務所様

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