庭造り

未来の森をつくる うつわやカフェ草soより   平成25年4月4日



 温暖な南房総、棚田を見下ろすカフェ草so。菜の花畑の景が小さな窓の額縁に切り取られ、心地よい清潔感と、この土地の暮らしの品格が室内に優しく伝わります。

 菜の花畑の下の棚田の風景。
 昨日までの大雨でようやく水を蓄え、代掻きを終えた棚田が快晴の空を反射して輝いています。
 素晴らしい眺望、カエルの合唱と日ごと旺盛に伸びる春の野草が、活気あふれるにぎやかな新年度の訪れを告げているようです。

 営業日である週末を避けながら進めてきた棚田のカフェの造園工事も、いよいよ中盤戦に差し掛かり、植栽によってカフェの景色も木々の合間に美しく溶け込んできました。
 こんな素晴らしいロケーションでも、人が快適に、落ち着いて暮らすためには、生活環境を守る木々が必要なのです。

 穏やかな晴天の日は、いつまでも外にいても飽きない素晴らしい眺望なのですが、いつもこんな穏やかな日ばかりではありません。
 夏の暑さや、遮るものなく吹きつける強風、それに家の周りに木々がないことの物足りなさ、草soのご夫妻はここに移り住んで2年を過ぎ、そして木々の必要性を感じ、快適な住環境を作る植栽を中心とした造園工事を決意されました。

 右がカフェ、そして左の小さな小屋がうつわギャラリーです。
 造園工事はまだ途中ですが、木々が建物の雰囲気を優しく包み込み、空間に潤いが生まれてきます。

 さて今日の仕事は、カフェ背面の斜面に、この土地の自然植生樹種による森を再生すべく、苗木の植栽準備から始まりました。

 森の再生に用いる樹種の選択のために、この地域の森を事前に踏査して樹種を調べます。
今現在ある樹種ばかりでなく、今は消えてしまったが昔はここに存在していたであろう樹種も推測し、この土地本来の森の姿を想像していきます。

 南房総鴨川は、千葉県内では他に見られないほどの豊かな樹種が、今もたくさん自生しています。温暖な南方の樹種ばかりでなく、ウラジロガシなど、もっと北方の寒い地域に適応する樹種も、この地域には普通に見られます。
 それだけこの地域には、いまだ森の豊かさが残っているということなのでしょう。

 この豊かな森は、この土地に代々暮らしてきた人たちが延々と守り繋いできたのでしょう。
こんもりとした木々に覆われた丘の下にはいたるところに鳥居があり、そして中腹には小さな神社や祠があります。そんな光景が鴨川の山間部には今も無数にみられます。

 なだらかな房総の山間部、山と言ってもせいぜい麓から数十メートルのほっこらした丘です。それでも木々に覆われた丘のふもとには水が湧き出し、夏も枯れない小川となって、森の下の田畑を潤します。
 豊かな森が上になければ小川は枯れてしまいます。
 つまりここで暮らしてゆくためには、丘の上の豊かな森の存在が必要不可欠で、それこそがこの地で代々人の生活が成り立つためのいのちの鍵となっていたのです。

 それを守るために先人たちは、森に祠を祀り、社殿を安置したのでしょう。

 豊かな棚田広がる山間部に点在する溜池。この水がここでの暮らしを成り立たせてきたのです。

溜池の上の森に分け入ると、上にはやはり祠が祀られていました。
「この森が水を生み出し、ここでの暮らしを可能にしてくれている。この森は決して伐ってはいけない。」
 そんな先人の声がこの森にこだまして、魂に響きわたります。

 雨上がりの今日、未来のためのいのちの森つくりのため、近所の方々が子供を連れてお手伝いに来てくださいました。
 ポット苗植樹は大勢でやれば楽しいし、仕事もはかどります。

 真剣なまなざしで子供たちも夢中で木を植えてくれます。
 木を植える楽しみ、そして自分たちが植えた木々が数年後森となってゆく姿を、子供たちはその心に刻み込んでくれるに違いありません。

 足場の悪い傾斜地をものともせず、近所の方々によって1時間足らずで250ポットの樹木苗が植え終えられました。 

 植樹の後は、土の上に藁をかぶせていきます。根の乾燥を防ぎ、土の中の生き物たちを守るためです。
 子供たちも一生懸命手伝ってくれます。

 藁が風で飛散しないよう、麻縄で抑えれば完成です。
後は木々同士の競争と成長に任せます。

 手を真っ黒にして植えてくれた子供達。

 一斉に芽を吹くこの時期、芽が開いたかと思うとあっという間に葉を伸ばしていきます。

 南房総の春の里山に白い花を枝一面に咲かせてくれるミズキも、植樹地の端の方に織り交ぜます。

 250本34種類の木々による家屋背面の屋敷林。上の道路が見えなくなるのは4年後くらいでしょう。そしてこれが50年後、100年後、どんな森となることでしょう。

 34種類は、この地域の樹種の一部に過ぎません。しかし、わずか34種類でも、それだけの苗木の種類を集めるのに一苦労です。実際にはこれではまだまだ種類が足りません。
 しかし、木々のなかったこの場所で、植えた木々が伸びて森になれば、小鳥や小動物、虫たちが来て周囲の山から種を運んでくれます。そうして次第に、ここに新たに産み落とされた森はこの土地の自然の中に同化してゆくことでしょう。

そう考えてゆくと、木を植えて森を作る、しかし実際には、植えるという行為は、本当の森となるための最初の誘いにすぎないのかもしれません。植えた木々がこの森の豊かな自然を呼び込むのです。
 それが本当の森つくりであり、それができる土地の豊かさに頭が下がります。
この先いつまでも、多様な生き物溢れる森が生まれる潜在的な力がこの土地に保たれますように、そう祈らずにはいられません。

 豊かな風土、それを守ってきたこの地の素晴らしい人たち。ここで価値ある植栽をさせていただける幸せをかみしめながら、また来週、カフェ草soの造園工事を再開します。
 植樹に参加くださいました地元の皆様、お疲れ様でした。

カフェ草のサイトはこちらから。

株式会社高田造園設計事務所様

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